ロシア研究会

平成30年10月 23日(木) 開催
場所:番町研究室
時間:18:00~20:00
担当者:  新田 容子  主任研究員 50-100-tag-yoko.jpgマトリョーシカ-02-200.jpg

露中の危ういブロマンス

 西側諸国のインテリジェンス史上における失策が原因で、冷戦時の深刻な中露の確執を見落としたことは今尚、深刻な懸念をはらんでいる。
少数のCIA高官たちが1950年後半からその後の積み重なる露中の対立を指摘したものの、米国やその同盟国の歴代政権は世界最大のこの共産党圏国が実は互いに憎悪の関係であることを信じようともしなかった。1969年にシベリアと満州国境沿いで起きた戦闘① で初めて、CIAの指摘に懐疑的であった者たちも露中の分裂が本物だと受け入れた。

 今日、西側はその真逆の過ちを犯している。具体的には中露が今まさに形成しつつある反米、反西側を訴えるこの結びつきを懐疑的にしか捉えていない。
 冷戦期のドグマがグローバル共産主義は揺るがない一枚岩であると描いたように、中露が友人関係には決してなれないという考え方は間違っており、危険だ。
現に両国の戦略が意図していないにしろ、相互に強化されている。結果として、露中は、国家指導者たちに民主主義から転換させ、独裁指導者たちが権力を掌握し続けられるよう支え合うことにより、世界中で独裁主義者たちを支持する傾向がみられる。

 プーチンも習氏も途方もなく互いを称賛し合い、ブロマンスを重ねている。プーチン氏によれば自分の誕生日をウォッカとソーセージで祝った唯一の他国の指導者は習氏のみ② 、習氏は友情の証のメダルを贈り「愛人」だと呼んでいる。
この状態は表面的なものだと一笑するのは容易であり、このような独裁者間の行動は両国それぞれのシステムにとって大きな意味をなす。2013年に習氏が最高指導者として初めての外遊にロシアを選んでからというもの、実に少なくとも27回にわたって会談している。

 露中は長きにわたって両国の政権の耐久性を高め、独裁体制を深化すべく友好的に多くの直接行動に取り組んでいる。この最も顕著な例として、独裁政権を強化するためにロシアはベネズエラに、中国はカンボジアに財政投融資を行っている③ 。無条件で財政援助や武器援助を行い、西側の強く要求する人権や法の支配の影響力を弱めようとしている。自国の影響力を広めるだけではなく、他国への西側諸国の民主的な動きを阻止し、市民を統制するベストプラクティスを教えている。殊に中国は自国企業の顔認証システムを売り、他国の独裁政権に通信やインターネットの効果的な監視のトレーニングを提供するなど監視や警備の方策を’輸出’している。ロシアは他国が見習いたいと思っている統制力が効くガバナンスのモデルを提供し、④ 、抑圧体制を向上させるべくプーチン大統領のやり方を自国に落とし込む節がある。習氏もみずから個人権力を収束しており、現在の中国の政治システムはロシアのそれを模倣している。

 ロシアの経済力は中国の十分の一とかなり不均等ではあるものの、両国にとって互いの経済関係は極めて重要だ。中国は世界最大の原油輸入国であり、ロシアは2017年度中国の最大の供給国であり、且つ中国政府はロシア政府に石油製品の供給源を担保するため数百億ドル(数兆円)を貸し付けている。中国政府の視点からすると、ロシアから石油を輸入する場合に米軍が簡単に封鎖するマラッカ海峡あるいはアデン湾といった戦略的に難所をわざわざ危険を冒して船で走行する必要もないのだ。

 しかしながら経済関係での結びつきよりも、隣国同士にとってより重要なファクターは軍事関係だ。今年4月に初の訪露で中国の魏豊国防長官は「中国側は米国側に露中の国軍間の親密さを見せつけている。中国はロシアを支持する。」と述べた。⑤

これは単に友好のレトリックではない。最近まで中国の海軍艦艇は何世紀にもわたって自国の海岸線をそれて走ることはなった。しかしながら今日では日本海から地中海を抜けて中国の戦艦がロシアと定期的な共同演習を行っており、何十年もの間ロシアは自国の最先端の軍装備品の中国への販売に抵抗を示してきたが、今やその政策を放棄している。この5月、中国は民主的で自治政府体制を取る台湾に威嚇行動の目的で、ロシアの戦闘機の最新モデルでの初飛行も認められている。ロシア製のどのような戦闘機に中国が関心を寄せ、何の目的で利用しているのか両国の結びつきを明示している。

 この9月、ロシアは冷戦後最大の軍事演習「ボストーク2018」 ⑥を行った。ロシアは今回初めて中国人民解放軍を招致した。これはロシアのクリミア併合の2014年以降勢いを増した戦略的思考の変化の集大成ともいえる。
露中は、1969年の2日間にわたる流血を観た衝突後軍備を拡張したが、1980年代には両軍とも非武装中立地帯に移動し、2004年に長きにわたった領土問題を解決するに至った。
中国政府は米国政権との安全保障、深刻な貿易摩擦問題で高まる緊張に直面しており、様々な領土争いで我が国、フィリピン、ベトナム等と関係にひずみをきたしている。それと同時に長年の目標としている台湾の支配を達成しようと躍起になっている。
露中それぞれ他国の脅威の存在であり、敵国を多く作ってきた。これ以上隣国との関係を悪化させたくないという目論見も合致している。
ロシア軍と中国軍が互いに信頼関係を深めることでサイバー空間上の更なる協力と協調をはかり、特には米国軍や民間の通信システムの脆弱性を探っている。
少なくともロシアと中国の防諜機関はCIAが両国に対して行なっている軍事行動についての機密事項を共有しているとされている。
いかに情報を掌握できるかを把握している軍が最も強力であることを理解しているからだ

 露中は現在、著しい情報戦力を向上させている。政治的、法的、メディアコントロール、インテリジェンス、心理的な手段を利用し且つサイバー戦を取り入れて自国の戦略の目的を達成する狙いだ。中国は南シナ海及び東シナ海を乗っ取るべく密かな情報戦の行動が見られ、ロシアが繰り広げている西側がハイブリッド戦争と呼ぶ情報戦は、ウクライナのクリミア半島の力ずくによる獲得が顕著な例だ。

 そして露中を結びつける最も深い要因は、両国のイデオロギーである。議会政治を嫌う両国は、将来いつか米国が支持する“カラー革命”によっていつか自分たちがお払い箱になるのではと脅威を感じている。露中間の親密な関係は互いの共有する関心事、つまり米国及び米国の主張するグローバルオーダーに対する嫌悪感を示しているのに他ならない。米国政権はこの2カ国間の関係が揺るぎないものになる前に何とか仲を引き裂く機会を狙うべきだ。

 冒頭で言及した1960年代の露中間における軋轢の実態を見逃したインテリジェンスコミュニティの失策は「ドミノ倒し理論」⑦ と呼ばれており、米国政権内で通説となっている。これが現状のいわゆる世界であちらこちらグローバル共産主義が拡散しつつあるのを何としてもとめる考えに表れている。もし米国がニクソン政権よりも10年早く中国と和解を図っていたなら、おぞましいベトナム戦争や中国の文化大革命を避けられたかもしれない。米国では1972年の中国との和解の立役者であるヘンリーキッシンジャー氏が幾度もトランプ大統領に、ニクソン元大統領のアプローチとは逆の戦略、つまりロシアとの友好関係を模索し中国を孤立化させることを強く勧告している。

 しかしトランプ大統領にとって、プーチン大統領との結託に関して捜査のメスが入っている現状を考えると当該戦略をうまく遂行するのは不可能に近い。この始まったばかりの露中の同盟が米国の利益や現在の世界秩序にどれだけ深刻な脅威となるか、米国の次の大統領も心する必要がある。
我が国は米国、ロシア、中国とどう向き合い、自国の国益を追求して行くのか。そろそろ我が国も情報戦力がどういったものか本腰で取り組む時が既に来ている。


https://nsarchive2.gwu.edu/NSAEBB/NSAEBB49/index2.html


https://www.businessinsider.com/putin-took-a-shot-of-vodka-with-xi-for-russian-leaders-birthday-2018-6


https://www.khmertimeskh.com/50499592/russia-cambodia-fruitful-interaction/


https://www.foreignaffairs.com/articles/hungary/2015-02-08/hungarian-putin


https://nationalinterest.org/blog/the-buzz/chinese-defense-minister-says-china-will-‘support’-russia-25216

https://www.washingtonpost.com/news/monkey-cage/wp/2018/09/13/5-things-to-know-about-russias-vostok-2018-military-exercises/?noredirect=on&utm_term=.9c3166a63d67


https://www.u-s-history.com/pages/h1965.html