平成30年11月20日(火) 開催
場所:番町研究室
時間:18:00~20:00
担当者: 新田 容子 主任研究員
アジェンダ
*米国INF条約撤廃
*インドとロシアの関係
*米露中関係
*ロシアのインフルエンス・オペレーション(影響工作)
*プーチンの発言にかかるロシア側の真意
*インターネットが世界的に権威主義的になりつつある傾向
ケルチ海峡
◆黒海とアゾフ海を結び、西をケルチ半島、東をタマン半島に挟まれた、幅が4.5kmから15kmの海峡。
ケルチ海峡での軍事衝突 事の真相は?ウクライナの船及び船員がロシアによって拘束されている。次に何が起こり得るのか?何が起きたのか?
筆者に11月26日付のメールで在京ウクライナ大使より本国外務大臣の同月25日及び26日の声明が届いた。25日付のステートメントはStatement of the Ministry of Foreign Affairs of Ukraine on Russia’s armed provocation in the Black Sea and the Sea of Azov「黒海とアゾフ海におけるロシアの武力挑発」についてであり、26日付のものはStatement by the Ministry of Foreign Affairs of Ukraine in connection with another act of aggression against Ukraine「ウクライナに対するもう一つの侵略行為に関連して」であった。[1]
これは日本時間11月26日未明に起きたロシアの沿岸警備艇がウクライナ海軍の艦艇に発砲し、3隻を拿捕したことを受けての発表であった。その後、ウクライナ側が同国東部の新ロシア派武装勢力が実効支配する地域に大規模攻撃を実施した。又、対露国境で30日間あまり還元例を導入することも決めた。
丁度この事件発生時、筆者は海外で開催されていたサイバー空間における軍事の安定性の会合に参加中であり、米英仏の生の捉え方に触れた。
彼らは“ロシアが全面的に悪い”と口々に述べていた。ロシア側は“ウクライナがこの挑発を起こし、救世主になって支持率を挙げようとしている”と主張。
又その後招集された国連安保理で米露が鍔迫り合いのような激しい論調を交わしていた。
この背景を辿ると、2014年にウクライナでクーデターが発生し、新欧米且つ反ロシアのヤヌコビッチ政権が誕生、その後ロシアがあっという間にクリミア半島を併合したことがふせんにある。
トランプ大統領はその翌日の27日にG20時に(於:ブエノスアイリス)でプーチン大統領とも会合を持つ予定であったが短時間での会談に終わった。[2]
この7月にはプーチン氏が米国の2016年大統領選挙時にサイバー介入したことをトランプ氏が全面的に否定する態度を取り、米国内でも米政権とインテリジェンス間の不信が浮き彫りになったと連日メディアも大きく取り上げていたため、この度両者がどのような態度を示すのか注目されていた。
ウクライナへのサイバー攻撃
ロシア政府関係者は、11月25日にウクライナの船舶と船員の襲撃と発砲の前後に、ウクライナ政府と軍の標的に対してサイバー攻撃を調整し始めたと、個人情報機関が今週発表した。この攻撃は、操作の計画に関連した情報を盗むことを目的としていたようだ。もしそうならば、この危機を引き起こしたのはウクライナだというロシアの強い主張は成り立たない。ロシアは、2008年にジョージアに戻って攻勢作戦へのサイバー攻撃のタイミングの長い歴史を持っています。ロシアのサイバー攻撃は、ウクライナの紛争に重点を置いており、2015年クリスマスイブに何千人ものウクライナの家庭は停電に追い込まれた。[3]
今年の秋、ロシア政府が後押しするCarbanakグループ[4]が詐欺メールで10月25日頃にリンクをクリックするとマルウェアをダウンロードする狙いを持った新しいフィッシングキャンペーンを開始した。電子メールには、実行時に攻撃者がデータを盗んだり、重要なコンピュータ機能を制御出来るリンクやその他のコードを含むPDFが添付されていた。ウクライナの政府関係者にターゲットを当て海軍、外交関連の情報を窃盗出来るのであれば、ケルシュ海峡危機を起こす準備としてのクレムリン主導の偵察であったことは間違いないだろう。
又、11月20日以前に、Windowsに合わせたPterodoと呼ばれるバックドア攻撃でGamaredon Groupと呼ばれるロシアのFSBと関係のある別のロシア人ハッカー集団[5]はウクライナ政府機関を標的にした。
11月26日、ロシアがウクライナの船を拿捕し、ウクライナの船員を監禁した際に、ウクライナの政府高官およびと軍事目標を目指すCarbanakグループの第2のサイバー攻撃が行われた。フィッシング攻撃にリンクされたマルウェアにより、データや電子メールが窃盗されたことだろう。[6]
その後、スパイウェアの戦争は両側でヒートアップしている。今週初め、マルウェアを搭載した偽のPDF文書を含む、ロシアの企業を対象とした新しいフィッシング詐欺が見受けられた。この文書はモスクワの病院のなりすましの患者データだった。このようにサイバー攻撃と伝統的な情報操作とを組み合わせて行うハイブリッドサイバー戦がますます増えている。 これは我々にあるオープン性とアイデアの自由な流れを利用している。残念ながら、我々はその事実に目覚めていない。
しかし、今となっては完全に米国のターゲットはロシアではない。中国だ。従ってロシアの動向に注目しても2014年ほどではない。従ってウクライナについても同じである。
今頃ウクライナは米国からの強い支持を取り付けられずにおり、肩透かしをくらっているのではないだろうか。
12月10日付のNew York Timesでウクライナのポロシェンコ現大統領が、“Putin must be punished”(罰せられるべきはプーチン大統領)と強い口調で寄稿している。[7]これもウクライナへの関心を向かせようという努力の一環だ。
フランスの大規模なストライキがエスカレーションした背景とは
先週の土曜日にパリでストライキが暴動化した土曜日、筆者はパリから他国に飛ぼうとしていた。
Gilets jaunes(フランス語で黄色のベスト)を着た人々に催涙弾が投げられたとメディアで報道もあった。もう一月あまり続いているストライキ運動であり、マクロン大統領もここにきて燃焼税引き上げの延期、大幅に譲歩するなど市民を沈静化すべく苦肉の策だ。[8]しかし、どうもおかしい。というのはマクロン大統領のメッセージがまるで伝わっていないかのごとく、エスカレーションしている。今回声を上げているのは一般市民である。何か特別な政治的な意図を狙っているグループではない。
欧州内の分断を狙うロシアの情報操作が効いている。
どのような方法をとっても人々の心理に入り込み、敵を弱体化させるのはロシアの外交政策として常套手段だ。
フランスにどれだけファクトチェッカーが存在するのか定かではないが、対抗策として事実に基づいた声を上げて行く事が一番だ。
① Statement of the Ministry of Foreign Affairs of Ukraine on Russia’s armed provocation in the Black Sea and the Sea of Azov
②https://jp.reuters.com/article/g20-argentina-putin-trump-idJPKBN1O10UH
③https://wired.jp/2017/01/14/hacking-ukraine-power/
④https://wired.jp/2018/04/16/fin7-carbanak-hacking-group/
⑤https://brica.de/alerts/alert/public/1239001/gamaredon-like-fancy-bear-and-cozy-bear-steps-up-cyberattacks-against-ukraine-others/
⑥http://blogs.360.cn/post/PoisonNeedles_CVE-2018-15982_EN.html
⑦https://www.nytimes.com/2018/12/05/opinion/petro-poroshenko-putin-ukraine.html
⑧https://info.ensemblefr.com/news-301.html